ゴールデンウィークも幕を下ろし、暑さも本番を迎える今日この頃。こんな時にスタミナ源として食べたくなる料理は色々ありますが、手軽にパワーを取りたい時には、かつ丼の出番だと思うのです!
ある日、NHKの裏手付近を歩いていると、目に飛び込んできたのが白地の幟。「かつどん屋」の文字に勇ましさを覚えれば、お店の入口に向かわないのは野暮ってものです。
暖簾に描かれた店名は瑞兆。辞書で調べれば「良い事が起こる前兆」という意味です。きっと、店頭に並ぶこの時間は良い事が起こる前ぶれ。そう期待せずにはいられません。
8席のカウンター席にようやく空きが生まれ、あとはメニューとにらめっこと思いきや、壁に貼られたその紙には「かつ丼1,000円 ビール(中)500円」の文字だけ。
シンプル、潔し、これでいい。唯一、ボリュームだけは3段階で選べたので、普通盛りを一つ注文しました。
「お待ちどうさまです。」の言葉と共にカウンターに乗せられた器。はみ出すカツを見て静かに歓喜しながら蓋を開きます。
眩しく輝く衣のエッジ。
都内で一般的な卵とじスタイルのカツ丼ではなく、薄焼き卵の上にカツを乗せて一体化されたところにタレが注がれています。
なので、一口目に衣を噛み締めた瞬間に走るであろう、サクッとした音がイメージできるんです。未来の喜びが見えるカツ丼って素敵だと思いませんか?
主役の厚さは約1センチ。厚すぎると口が疲れたりする一方、1枚ものだとある程度の厚さも欲しいところ。丁度いい塩梅の断面を眺めつつ、一口ごとにはまっていきます。
少し甘めの醤油タレが絡んだ衣や半熟加減も残した薄焼き卵を、さらっとした口当たりのお米とともに頬張れば、「そうそうこれこれ!」と、まるで漫画のセリフのような言葉が脳裏に走ります。
玉ねぎやネギといった野菜の姿は見えません。シンプルの中に芸術的な味のバランスが生まれています。
ところで、上から注がれたタレは食べるに連れてカツや卵の層から流れ出しますが、薄焼き卵が蓋の役割となって丼の縁を走って下に溜まっていきます。
なので、最後までお米がベタベタになることなく絶妙なバランスがしっかり堪能できます。最後の一口がサラサラと流しこむように食べられるのは、食後のおまけのような感じでしょうね。
丼が空っぽになり、優しい旨味がしっかり効いたお吸い物のお椀も空っぽに。その瞬間からもう食べたくなる。
日本には色々なご当地カツ丼がありますが、ここのカツ丼が発祥となって、瑞兆系という系譜ができる日が来るかもしれません。